大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所竜ケ崎支部 昭和47年(ワ)23号 判決 1977年2月18日

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

1  被告は原告町野利幸に対し金八、五二四、七三〇円とそのうち金八、一七四、七三〇円に対する昭和四七年五月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告町野歌子に対し金八、二二一、六一〇円とそのうち金七、八七一、六一〇円に対する昭和四七年五月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  事故の概況

訴外町野忠志(当二〇年、以下訴外忠志という)は、昭和四六年九月一二日午後三時半ころ日立市大久保町一丁目一番地先国道交差点内を自動二輪車(以下町野車という)を運転して直進中、対向し右交差点を右折しようとした被告運転の普通四輪乗用自動車(以下被告車という)と衝突したために路上に転倒のうえその場で死亡した。

2  被告の責任

被告は自己のため被告車を運行の用に供した者として(自動車損害賠償保償法三条本文)その責に任ずる。

3  原告らの損害

(一) 原告町野利幸は諸費用金三〇三、一二〇円(内訳交通費金六、四八〇円、遺体輸送費用金二〇、〇〇〇円、葬儀料金二七六、六四〇円)を支出した。

(二) 原告らはその子である訴外忠志の死亡により慰謝料として各金一七五万円づつの損害をうけた。

(三) 原告らは、訴外忠志の逸失利益を各金八、六二一、六一〇円づつ相続した。

(四) 原告らは本訴につき弁護士費用として各金三五〇、〇〇〇円づつを要した。

よつて、被告に対し原告町野利幸は右3の(一)ないし(四)の合計である損害金一一、〇二四、七三〇円から自動車損害賠償責任保険金二、五〇〇、〇〇〇円を差引いた残額金八、五二四、七三〇円とそのうち金八、一七四、七三〇円に対する訴状送達の翌日である昭和四七年五月二〇日から支払済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求め原告町野歌子は右3の(二)ないし(四)の合計である損害金一〇、七二一、六一〇円から右保険金二、五〇〇、〇〇〇円を差引いた残額金八、二二一、六一〇円とそのうち金七、八七一、六一〇円に対する右同旨の遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の認否と抗弁

1  認否

請求原因1、2事実は認め3事実は不知

2  抗弁

(一) 免責事由(自動車損害賠償保障法三条ただし書)

(1) 被告は本件交差点中央附近で一旦停止後信号が黄色に変つたので対向車の停止するのを確認し再び信号が黄色であるのを確認してゆつくり右折したものでその運行に注意を怠らなかつた(被告の無過失)。

(2) 他方訴外忠志は信号が黄色から赤に変つたにもかかわらず本件交差点内に進入してきて折から右折している被告車と衝突した過失がある(訴外忠志の過失)。

(3) 本件は被告車の構造上の欠陥または機能上の障害とは関係がない。

よつて、被告はその責を免れる。

(二) 過失相殺

仮に被告に過失があるとしても訴外忠志の過失は決定的に大であるので相当程度相殺さるべきである。

三  原告らの認否

抗弁1、2事実は否認する。

特に抗弁1事実について被告車の停止地点から衝突地点までは約四メートルでその経過時間は約二秒(鑑定の結果)、他方町野車の本件交差点開始地点から衝突地点までは約二七メートル、これを時速四〇ないし五〇キロメートルで進行した際の経過時間は約二秒であるので被告車が信号が黄色で発進すると町野車も同時に交差点開始地点を通過しているものであつてこの際被告は直進車である町野車の進行を妨害してはならない(道路交通法三七条)のに衝突せしめた過失がある。(被告の過失)

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1事実(事故の概況)、同2事実(被告の責任)は当事者間に争いがないところ同3事実(原告らの損害)の判断は留保する。

二  進んで抗弁(一)事実(免責事由)について検討する。

1  その(1)事実(被告の無過失)は被告本人の供述によりそれは明らかであり、加えて事故直後司法警察員によつて聴取されその成立に争いのない甲第五号証の一中の被告の指示説明部分「右折するため停車していて前方の信号が黄色になつたので右折をはじめ・・・」によつても大略これを裏付けうる。右認定に反する証人村山隆雄の「被告車は本件交差点内で停止せず信号が黄色となつた際右折を完了していた」旨の証言は同証人が本件交差点より五〇メートル以上離れた地点での目撃にかかるもので誤認の疑いがあり直ちには採用し難い。

2  その(2)事実(訴外忠志の過失)は証人村山隆雄の証言により明らかであるところ加えて次の理由により裏付られる。即ち前記甲第五号証の一、二、および被告本人の供述によると、被告車は本件交差点中央附近で停止し前記認定のとおり信号が黄色に変つた後対向車の停止および再度信号の黄色を確認しゆつくり右折して衝突地点に達したこと、その右折方法は大きく円弧を描くことになりその距離は先の停止地点から衝突地点まで直進した距離約四・一メートル(前記甲第五号証の二)を大きく上廻ること(従つて原告の反論1被告の過失1は被告車が停止地点から衝突地点までを約四メートル、その経過時間は約二秒間であることを前提として立論しているがそれ自体理由がないことになり、この点の鑑定の結果も採用の限りでない)、更にその右折進行するに際し路面等の抵抗により前記両地点を直進した場合よりその所要時間を多く要することを総合すると被告車が衝突地点に時速約一四ないし一五キロメートル(鑑定の結果)で達したとしてももはや黄色信号の表示時間五秒を経過し次の全赤信号(五秒)ないしその後の赤色信号の表示時間内(二五秒)であつたことが容易に推認できこの時間内(赤信号)に町野車が本件交差点開始地点から時速四〇ないし五〇キロメートル(証人村山隆雄の証言)で進行し衝突地点(原告らの主張によるとその間約二七メートルでその経過時間は約二秒間)に達したことが推測される。

(仮に町野車が黄色信号の表示時間内に本件交差点開始地点を通過したとしても当時の道路交通法三七条二項により右折進行中の被告車の進行を妨害してはならないのに衝突せしめたことになる)

3  その(3)事実は原告らは明らかに争わないから自白したものとみなす。

4  以上によると、被告が右折に際しとつた措置は相応の注意を怠らなかつたと言えるところ訴外忠志が信号が赤色であるのに本件交差点に進入し右折中の被告車を認織しながら衝突を回避する措置をとらずもしくは不注意により右被告車を認識しないまま進行した点に過失ありと言えるのでその余の判断(請求原因3事実、抗弁(二)事実)をなすまでもなく、被告は自動車損害賠償保障法三条ただし書により運行供用者としての責を免れる。

三  従つて原告らの本訴各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大淵武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例